東芝を辞めてDeNAを辞めて、フリーランスになって1年が過ぎました

大体タイトルで言うべきことは終わりなんですが、せっかく今日でちょうど1年になったので全然活用してなかったはてなのブログ機能を使って、記念の意味で書いておこうと思います。

今まで何をやってて、今何をしているか

  • 大学院を出て新卒で東芝の研究所に入る
  • 4年ほど研究員として勤めて2012年1月19日に東芝を退職
  • その翌日から当時ソーシャルゲームでイケイケだったDeNAで勤務開始
  • いろいろあって1年でDeNAを退職
  • 家賃の安さに惹かれてさいたまに移住し、現在フリーランスの翻訳業

それぞれのイベントで思うところがなきにしもあらずだったんで、ちょこっとずつだけ書き留めておきたいと思います。

東芝に入った理由

こんなことを書くと東芝の諸先輩方に怒られるでしょうが、特にありません。
学推使って入ったのですが、新卒の就職活動でよくある「ここに内定もらったからなんとなく」就職です。
その履歴で4年弱で辞めてしまったのはその後学推を使う人のことを考えると少し申し訳ないかなと思わなくもないですが、まあそんなのを今更振り返って悔やんでみてもしょうがないです。

東芝では何をやってた?

4年間通して、携帯に搭載された実世界センサで情報をとって、持ち主が何をやってるか推定する技術の開発に関わってました。
その技術を使ったアプリの要求仕様を書いてみたり、その仕様で出来た物でテスター集めて実験したり、その結果が日経産業新聞の記事になったり、国内外の学会に会社のお金で参加させていただいたりして、それなりにハッピーな時間を過ごさせていただいたと思っています。

東芝を辞めた理由

自分で手を動かして物を作る仕事に関わりたかった、というのが主です。
当時、研究所の仕事とは、自分で物を作るというより、アイデアは出すが現物は誰かに作ってもらい、それを管理するほうの仕事のウェイトが大きいと感じていたところがありました。
そうした環境で、世の中平均から見ればずいぶん恵まれた給与を受け取って10年、20年と勤め上げて、ある日会社から放り出されることがあったら、そこには自分では何も作れないオジサンが出来上がる。そうなれば生活できなくなるという恐怖がありました。
それを解決する手段として、ソフトウェアの事業会社に移り、自分で物を作れる人としてキャリアを積もう、という選択を取りました。

DeNAに入った理由

2011年の夏から、普通に勤めながらITの事業会社をターゲットに2か月ほど転職活動をして、ナビタイムジャパンGREE、そしてDeNAの3社から内定をいただきました。
ナビタイムジャパンは途中で蹴っていたので、秋の半ばに最終選択をする時には手元にGREEDeNAの2社のオファーレター。
どちらも当時、日本のIT業界のツートップを張っていた存在であり、示された年俸はGREEのほうが少し高かったです。が、DeNAを選択しました。
理由としては、

  • 当時のGREEDeNAのエンジニア面接のやり方を比較して、GREEはスキルは自己申告であったのに対し、DeNAのそれはスキルをきちんと測る形式となっており、ある程度スキルを評価して採ってくれていると考えた。
  • 面接を通して受けた会社の印象として、GREEのそれは「すごいパソコンクラブ活動」であり、当時調子は良かったが会社として入ってやっていくにはどうかな、と感じた。

後者に関しては、僭越ながら、あれからGREEを外から見てる限りでは当たらずとはいえ遠からずだったかと思っています。
ただ、前者は今から振り返れば、調子がいい時の大量採用に引っかかった程度のものであり、スキルの判定基準は大甘だったでしょう。その点で大きなうぬぼれがあったと反省しなければなりません。

DeNAではどうだったか

ngCoreなるものの開発環境であるngBuilderなるものの開発に携わってました。まあ、携わっていた、なんて言えない程度に貢献度は小さかったですが。
去年の夏頃にはngCore終了の報道もあり、それに伴ってngBuilderも黒歴史化するでしょうし、それ以外に目立つ成果を上げたわけでもないので、結局自分はDeNAでは何も出来なかったということです。
ただ、ngBuilderの開発を通して、確かに自分で手を動かして仕事するという経験は積めましたし、チケットや継続的インテグレーションを使った開発プロセスに身を置いて、現代的なソフトウェア開発について知ることができました。
所詮自分どまりのささやかなものですが、当初の目的は一応満たせたことにはなるでしょう。

DeNAを辞めた理由

主に2つです。

  • 自分がDeNAで成果を出すには、圧倒的にスキル不足であったことを悟った
  • ソーシャルゲームという商材を自分で面白いと思うことができなかった

前者について、前段に書いてあることからも分かりますが、私は現代的なソフトウェア開発の知識をまったく持ち合わせないまま、そうしたものを空気のように扱う現場に入ってしまいました。かと言ってそれを補って余りあるモバイルアプリ開発の技術やら、フレームワークの知識やらを持ち合わせているわけでもありませんでした。
また、DeNAの現場は英語を公用語とした海外のチームとのリアルタイムなやりとりも大量に発生するため、特にSpoken Englishが満足に出来ないとチームメンバーとの意思疎通すらまともに出来なくなりますが、その英語の運用能力も微妙でした。
そして後者は、モチベーションに大きく関わってきます。
スキルが足りなければ補えば良い訳ですが、そもそもソーシャルゲームに過剰に課金する人の姿がクローズアップされるようになって、それってどうなの?と自分の扱う物に対する疑義が生じてきていました。
そんな気持ちで接している物をより良くするモチベーションが上がるはずもありませんでした。そんなのは入社前に触れば分かるようなもんですが、恐怖心が行動の発端になってたせいで焦りが生じ、入って触っているうちに気に入るさ程度の甘い見込みになっていたわけです。
スキルも足りず、その向上のモチベーションも上がらない。その状況を続けていても良いことは無いので、早々に身を引くことにしました。
2012年の夏頃のことです。

翻訳業を選んだ理由

辞めるとなれば次の仕事が必要です。
が、辞めようとした時期は、自分はITエンジニアとしては三流以下と評価を下したあとなので、またぞろIT企業にエンジニアで入るのはないなと、それ以外の職を模索していました。
そんな中、ngBuilderの仕事を通じてUIやドキュメントの翻訳を担当する機会があり、これは結構面白いかな、と感じていました。
誤植とか変な表現とかを見つけて逐一潰していったりもゲーム的で面白いし、なにより手を動かしただけ成果になる割合が大きい。これが変なところで真面目な私には合っているように思いました。
また、エンジニアとしてのセンスは三流だが、そこそこIT系のことを知ってはいるので、翻訳業に持ち込めば役立つかも、とあたりをつけた面もあります。
ではそれを目指そうということで、2012年の夏から秋にかけて、テクニカル系の翻訳に分野を絞って、いくつかの翻訳会社に採用試験にあたるトライアルを受けさせてもらい、3つの会社から翻訳者登録を得ることができました。これである程度仕事のメドがついたので、退職を切り出しました。

フリーランスを選んだ理由

フリーランスという働き方を選択したのは、東芝に居た頃から独立して稼げるネタが出来れば独立したい、という気持ちがあり、翻訳業がそのネタとして浮上してきたため、満を持しての選択でした。
また、翻訳業界は昔からフリーランスが非常に多い業界で、翻訳会社に入らずに仕事をするなら基本フリーランスで働く慣行に合わせたところもあります。
加えて、フリーランスとはいえ事業主であれば、経理のことや年金・保険、その他会社が面倒を見てくれる部分も自分で見なければならなくなるので、会社員のままでは興味を持って取り組まないここらの部分に嫌でも取り組めます。この辺はいま確定申告の季節が近づいて取り組んでますが、実際に嫌です。。

フリーランスとして活動開始してから

今日からちょうど1年前、2013年2月1日を開業日として個人事業主となり、フリーランスの翻訳業者としての生活が始まりました。
で、よくある展開ですが、当てにしてた会社から仕事が来ない。
仕事の軸にしようとしていた一番大きなプロジェクトが待てど暮らせど始まらない。
まあちょうどいい休みですね程度の気分で過ごして、2月、3月は充電してましたが、全然仕事は動かない。
3月後半に、退職前に登録してた会社からようやく初仕事を貰えましたが、この仕事の密度では早々に干上がると感じ、3月後半から新たに仕事を探す旅を始めました。

翻訳業界の職種について

ところで、現在の翻訳業界で仕事する人としては、別に翻訳者ばかりがいるわけではなく、まず翻訳者に近い職種では、翻訳者の上げた文の誤字脱字、技術的内容のチェックをする、校閲・チェッカー・レビューアなどと呼ばれる人がいます。
他にも、翻訳する元ドキュメントを分析してしかるべき翻訳者に割り振るコーディネータ、100万ワードクラスの大規模なプロジェクトにはプロジェクトマネージャ、プレゼンテーション翻訳などではDTP技術者、そして大規模な文字列処理が必要な場面ではPerlXMLを扱うエンジニアも仕事をする、割と多彩な職種のある業界です。
また、私が関わっている仕事は主にソフトウェアのマニュアルやWebサイトの翻訳が多いです。そういう現場ではTradosやIdiomといった翻訳支援ソフトを活用することがほとんどであり、また大きな会社のドキュメント翻訳だと、過去の翻訳をネットワーク越しに多数の作業者と共有しつつ作業することもあるので、ひたすら語学力を使って仕事をする以外に、エンジニア的な要素が求められる場面も結構あります。

チェッカー狙いに転換

当然、翻訳業界では翻訳者こそが花形で、報酬も高いのですが、いかんせんベテランの翻訳者に仕事は集中する傾向があります。
私が最初に登録していた会社はすべて翻訳者としての登録でしたが、やはり実績もない人間に翻訳の仕事がそうそう回ってくるものでもありません。この時期、いくつか追加で翻訳者のトライアルにも出していましたが、あっさり落ちるか、登録されても成績下位で全然仕事の来ない状態になるかでした。
そこで、だいぶ報酬は落ちますが、チェッカーの募集をターゲットとして、まずは仕事を貰えるようになることを目指して方向転換しました。
この辺、海外と日本の翻訳業界とでだいぶ事情が異なるようですが、日本ではチェッカーは「翻訳者の登竜門」、つまり下積みと扱われている面があり、翻訳者をいきなりやろうというよりは難易度が低いのです。

転換後

この転換の結果、幸い退職前に登録してた会社とは別の会社に2社、チェッカーとしての登録をいただき、4月、5月、6月と徐々に仕事がいただけるようになり、去年の10月以降は常に何かしらの仕事を持たせていただいている状態になり、現在に至っています。
仕事の精度についても、おおむね高い評価をいただけています。ありがたいことです。
また、退職前の狙いについても割と当たっており、この業界、英語ができる人はいっぱいいますが、それなりの会社で技術職をやった経験のある人となるとあまりいなくて、それが東芝DeNAでの経験となると相当レアキャラになるようです。
加えて、先に述べた翻訳者へのエンジニア的要素の要求があり、ツールの習得で手間取る方もいるようです。ただ、gitやプログラマ用の開発環境よりは簡単なので、それらを使ったことがある点が大きなアドバンテージになり、私の場合はツール習得の速さに驚かれることが多々ありました。

仕事以外

フリーランスになって、いちいち会社に行かなくても仕事ができる状態になったので、勉強時間は割と取れるようになりました。
長期間、速読の訓練を受ける機会も持てましたし、翻訳業やるくせに英語のスキルがTOEIC 820というゴミレベルだったので、それも鍛えて930まで上げ、基本引きこもりで人に会わないので、それを求めることも兼ね、地元の英会話サークルに入りネイティブスピーカーに稽古を付けてもらったりしてます。
あとDeNAへの通勤を考えて杉並に住んでいましたが、ワンルームでも家賃が高いので埼玉に引っ越しもしました。おかげで家賃を下げてRC造2DKの部屋独占してます。埼玉南部のコスパの高さは異常。
これは経費化できない杉並での家賃を経費化できるように、「事務所可」な物件を探した結果でもありますね。

これからどうする?

仕事でも、仕事以外でも、これまでやったことのなかった事や、中途半端なまま放置していたスキルを伸ばす機会を得られ、翻訳業でやはり自分の手を動かして報酬を得る仕事をしている点は非常に満足しています。
ただ、現在の形態をずっと続けはしないかな、と考えています。少し離れて見れば、所詮翻訳会社からの仕事を末端でこなしているだけなので、もっと上流から仕事を見られるようになるため、コーディネート側に回る道も検討しています。
あと、エンジニアがフリーになると凄い月収になったりしますが、翻訳業の場合、フリーだと末端作業者に回りがちで報酬はものすごい安いので、末端から上がらないと生活に余裕が出ないという問題もあります。
そのために、フリーランスからまた会社員に戻るという選択もあるのかな、と考え始めています。
フリーランスの立場から見てみて、はじめて組織に所属するメリットがいろいろ羨ましく見えてもいますしね。。

ちょっと書くだけのつもりがだいぶガッツリ書きましたが、私の現状はこのような感じです。今日からフリーランス2年目の日々を焦らずに、だが現状の繰り返しにならないよう、過ごしていきたいと思います。

(追記)

ただ単に1年経過したから書いた記事ですが、400を超えるブクマと大量のブコメをいただいていたので、いくらか気になったものについて補足させていただきます。

>激励のコメント

ありがとうございます。励みになります。

>失敗例ですね。反面教師にします。

この記事をキャリアアップの記事と捉えると失敗例となるでしょう。
私自身、東芝からDeNAの転職を成功と評価はしていません。失敗でしょう。
また、このような遍歴をとることを人に勧めるつもりもないので、いくらでも反面教師にしてください。
まったく関心をもたれず、ネットの海に沈んでいるよりは記事を書いた甲斐があるというものです。

フリーランスフリーターの違いとは

フリーターは政府機関による定義があります。
そこから「現在就業している場合」の条件を抜粋すると、

厚生労働省の定義:15歳から34歳のうち、勤め先の呼称が「アルバイト」または「パート」の被雇用者(※)、かつ男性の場合、継続就業年数が1〜5年未満。女性の場合、未婚で仕事をしている。
内閣府の定義:15歳から34歳のうち(ただし、学生と主婦を除く)、パート・アルバイト(派遣等を含む)として働いている。

※引用元では厚生労働省の定義の「被雇用者」は「雇用者」となっているが、会社等に雇用されている人を指す言葉であろうから「被」を補った
(引用元)若年失業・無業関連資料 Ver.1 - 内閣府

もともと、不安定な就業形態で働く若年者層の問題を取り扱うために作られた言葉のようです。

フリーランスに明確な定義はないようです。
個人事業主、契約社員派遣社員など、就業形態もさまざまですが、フリーランスと呼ばれる人たちに共通する特徴としては、ずっとひとつの職場にとどまることなく働く、ということになるでしょうか。
ただし内閣府の定義に沿うなら、派遣社員の場合はフリーターと呼ばれる層との境界はあいまいになります。
契約社員の場合はフリーターの定義から外れます。正社員と契約社員との格差の問題などが昨今取りざたされてはいますが、期間の定めこそあれ派遣社員やアルバイトより雇用の安定性はあるため、フリーター問題を扱う上ではやはり違うものと扱うべきでしょう。
個人事業主の場合は、まず被雇用者でなくなりますから、その点でフリーターの定義から外れますし、たとえば所得にかかる税金の処理は自分でやらなければならないなど、実務面でも少し違ってきます。
あとはフリーランスと呼ばれる方のほうが、フリーターと呼ばれる方より専門性の強い職に就いている割合が多いように見受けられる、というところが違いでしょうか。

なお正社員と契約社員との関係については東京都の資料が詳しいので、ご興味のある方はそちらもどうぞ。
(参考)契約社員ハンドブック(東京都)

TOEIC 820はゴミレベルか

日系企業の技術職として評価するなら、TOEIC 820は「かなり英語が出来る人」という評価でしょう。
しかし翻訳業だとエントリレベル未満です。翻訳業に入る最低限の英語レベルの目安が「英検準1級、TOEIC 850」と言われています。
翻訳関連の求人でも、この辺りの数字が見られる例があります。
(例1)DHCの翻訳チェッカー求人
(例2)特許事務所の求人
ただ、これに専門知識のあるなし等も加味されるので、必ずしも英語のテストの数字だけで評価されるわけでもないです。
私は英語のテストの数字は最低限未満だったので「ゴミレベル」でしたが、トライアルには受かったので始めたという訳ですね。

なお、DHCとは化粧品で有名なあのDHCです。
元々「大学翻訳センター(Daigaku Honyaku Center)」として翻訳事業で創業したが、途中で輸入雑貨の取り扱いを始めて現在の主力事業の基になっているということです。

>楽な方に流れている

「楽」というのにもいろいろあると思います。
人間関係を考えなくていいから楽、通勤しないでいいから楽、仕事がそもそも楽、など。 たとえばいま挙げた側面に注目して評価してみます。

人間関係:
何をやるにも自分が代表として振る舞う必要があるため、取引先にもじきじきに出向いて仕事をもらったりしなければなりません(在宅作業だけでなく、取引先に出向いたり、必要に応じてオンサイトで仕事することもあります)。
今まで技術職なら技術職のみに徹していてもよかったわけですが、今は営業もやらなきゃならず、人間関係に費やすコストはむしろ高くなりました。
会社の飲み会やらにつきあう必要はなくなりましたけどね。

通勤:
確かに在宅作業のときは仕事場まで布団から0分という環境で仕事してますので楽です。
ですが、通勤の苦労は進んで受け入れる苦労ではないと思います。

仕事:
仕事にかかる時間やそれに対する報酬、という点で評価すれば、一番楽だったのが東芝時代、次がDeNA時代、仕事の確保から全部自分でやる必要がある今が一番キツいです。
ガッツリ儲かるビジネスモデルを持ってる訳でもないから、現在は収入も会社員時代の方が多かった状態ですね。ただ、これはここ1年くらいで改善する必要があると思います。
労働時間についても、身体こわしちゃ元も子もないんで週1で休んでますけど、有休も無いですから土日休みだった会社勤めよりキツいです。

仕事の遂行に必要な技術の難しさ、という面では東芝DeNAでの仕事が勝るかもしれません。たとえば仕事で必要なコードが動かないとかで頭を抱える必要は基本的に無いので。
翻訳業でときに不安視されるPC操作に不安を覚えることもないので、翻訳をやってるときは基本的に手はすいすい動きます。
ただ、問題のない翻訳をするには、特許のデータベースや法律・法令の訳出例にあたって裏を取りにいかなければならない場合もあり、単に英和辞典を引いて出てきた英語を日本語に直せばよい、というほど簡単なものでもありません。

そもそも、仕事の遂行に頭抱えながら考えて手が動かなくなるほど難しいことをするのがそんなに凄いこととも思えません。
各人にとって、普通に手が動かせる程度に馴染んだ技術を使って成果を上げるほうがよいでしょう。

すべて自己評価ですが、一概に会社員時代より楽と評価されるような状況ではないと思います。
もしかしたら、気に入らない仕事でも耐えて続ける苦労から逃げてる、という意見なのかも知れませんが、気に入る仕事をやってても苦労なんていくらでも出てきます。
それなら気に入る仕事をやったほうがよくないでしょうか。

>人手翻訳なんて機械翻訳に駆逐されるのでは?

機械翻訳については、業界関係者も強力な競合として意識しているところではあります。
最近では、機械翻訳を下訳として、それを人間のチェッカーが読める文に仕上げていく「ポストエディット」という職種も登場しています。
10年、20年と経てばもしかしたらほぼ人間が手作業でやる翻訳と変わらないクオリティのものが出るかも知れません。

ただ、機械翻訳がそこそこ一般的になって10年ほど経ちますが、現状の機械翻訳のクオリティを見る限りでは、まだまだ「わかってない」翻訳を吐き出してくれる代物でしかありません。
ちょっと文法的な誤りや省略が含まれている(仕事で扱う文章でもそんなのはざらにあります)と、元言語のまま翻訳を吐き出して訳文を意味不明にしてくれますし、記事のコンテキストや訳語決定の歴史的経緯も判断に加えた単語の訳し分けの判断なんてまったく出来てません。
そのあたりではまだまだ、人間に分があるという状況です。
アインシュタインの伝記がほぼ機械翻訳で、とても読めたものではなくて大騒ぎになったことも記憶に新しいところです。
(参考)アインシュタイン伝記本回収 機械翻訳使いひどい訳になった?

確かに、これからの機械翻訳の発達には注視する必要があります。
ただ、その発達に10年、20年かかるとしたら、そこまで気にしても仕方ない部分があるので、今はまだ人間に分がある翻訳のノウハウを貯めている期間と思って仕事に打ち込むことにします。

>東大京大レベルの主婦がいっぱい居て、その人たちが経験豊富な翻訳者として働いてる。お前が勝てる要素なんて無い

そもそも「東大京大レベルの」学歴を持ったうえで「主婦」で翻訳業にとどまっている方がそんなにいっぱいいるのかという疑問はありますが…
翻訳者同士の競争に関しては、少し翻訳業界の分野について補足した方が良いかもしれません。

まず、翻訳業界には大きく分けて「出版翻訳」「映像翻訳」「産業翻訳」という3つの分野があります。
一般に、翻訳業界のことを知らない方が「翻訳者」と聞くと、本屋の平積み棚に「△△著、〇〇訳」とクレジットされた本を想像して、その訳文を書いている方のことを想像されると思いますが、これは「出版翻訳」に属します。
「映像翻訳」は洋画や洋物のビデオの翻訳字幕を書いてる人、と言えば伝わるでしょう。
これらの分野は定番の翻訳者がいてそれ以外の人には本当に仕事が回らないので、こういうところでは「勝つ」必要があると思います。

一方、私がやってるようなマニュアルなどの翻訳は「産業翻訳」と呼ばれる分野です。
この辺の仕事は出版や映像と違い、訳した人の名前は出てきません。
だから目立たないのですが、実のところ翻訳業界の9割のシェアを占めるのがこれらの「産業翻訳」の仕事だったりします。
(参考)翻訳業界研究:翻訳業界って? - WIP翻訳研究所

まあシェアの話は蛇足なのですが…
では「産業翻訳」の仕事はどのような規模でどのように進むかというと、シェアが大きいということは、それだけ大きな仕事が多く、ひとつのプロジェクトが10万、100万といったワード数になることが珍しくありません。
その規模のプロジェクトを2週間とか3週間の納期で回していることもよくあります。
当然、そういう規模と納期だと、優れた翻訳者がひとりふたり居たところで仕事なんか回りません。
翻訳書のあとがきに「担当の誰々さんには遅れ続ける原稿を待っていただき…」という文言を見かけることがありますが、ああいうのは出版翻訳を依頼されるような、半分「作家先生」な翻訳者だからできることで、産業翻訳にそんな待ってくれる担当はいません。

なので、産業翻訳の分野で腕がいいからこの人「だけ」に仕事を回す、という現象はあまり起きません。
当然一定の腕前はないと翻訳者として採用されないわけですが、それはトライアルで担保されます。
そうしたトライアルを抜けた腕のいい人を何人も集めて、その人たちを一緒に動かして仕事を回す、という形が産業翻訳では基本になります。

ですので「勝つ」必要はなく、協調すればいいのです。

なお、チェッカーから始めた私ですが、1年やって最近では徐々に翻訳の仕事も取れ始めています。
やはり名前は出ませんけどね…

>主婦翻訳者や副業翻訳者が相場以下の単価を出してきたらどうするの

産業翻訳における仕事の回り方から続きますが、このように大規模かつ協調が必要になる仕事なので、翻訳会社の中にいるコーディネータによって仕事が振られる形が基本になります。
そういう形なので、報酬はワード単価や時間単価で翻訳会社が管理しています。

翻訳業の求人でも同じ単位で報酬が明記されていることが多い(まれに自分で希望報酬を提示させる求人もあり)ので、作業者である翻訳者やチェッカーは比較的相場が良いと思われる求人に応募します。
あとはトライアルに通るかどうかで仕事が貰えるかどうかが決まってくるので、わざわざ自分から単価を切り下げて提示する必要がそもそもありません。
だいたい、一回単価を安くしてしまうとそのあと高くすることはなかなかできません。
主婦の方が内職をするモチベーションは少しでも家計を助けようというものと思いますが、そうしたモチベーションで報酬を自分からわざわざ低くしたりするでしょうか。

ただ、最近は特に大陸勢のMLV(多言語翻訳会社)による単価の切り下げが厳しく、翻訳会社としてもなかなか高額の単価は提示しにくい状況になってきているようです。
むしろ相場以下の単価を提示して頑張らなければならないのは翻訳会社の中の人になった場合と思います。 もし翻訳会社の中の人になったらその苦労を噛み締めることになるでしょうが、それは作業者として気にするところとはまた別の場面なので、ここで語る話題ではないと思います。

以上です。
また同じような記事を書くとしたら、1年後になると思います。